第4章 友達
マザーはあたしの顔をじっと見つめて、唐突に話し出す。
「あなたは、何かを探している顔をしていますね」
「え?」
「こんな歳まで生きていると、それはもう沢山の人に会いました。いろんな人間がいることを知り、顔にはその人の生き様が写ることも知りました。だから顔を見れば、その人がどんな人かある程度わかります」
そう言って微笑む。
「一目見た時に、あなたは何かを追い求める顔をしていると思いました」
そう言われても、別に思い当たることなんか。
思うと同時に、頭の中に映像がよぎった。
──去っていく背中と、青い海。
「そんなこと…」
否定しようと思ったけれど。
海に焦がれていたのは確かだし、いつか会いたいと思っている人がいるのも確か。
完全に否定できないまま、言葉が宙に消える。
「私はついさっき、人生でこれ以上ないほどの後悔をしました。あの子に会いにいけばよかったと」
マザーは真剣な眼差しで続ける。
「ずっと会えていませんでした。ここの子供たちのこともありましたし、何かと理由をつけて忙しいと思い込んでいました。ですが、今思えば会いにいく労力を惜しんでいただけのような気もします」
そう話すマザーの声色は相変わらず穏やかだったけど、表情には隠しきれない後悔が滲んでいた。あたしはそんなマザーに何かを言おうと思ったけど、かける言葉が見つからない。
そして、マザーはこう締めくくったのだった。
「──会えるうちに会っておくこと、それが何物にも代えがたいことだと気付きませんでした。長く生きましたが、この歳になってもまだ学ぶことがあるものですね」
マザーの言葉を聞いて、今、とても心が重くて苦しいのはなぜだろう。
──思い当たることがあるからじゃないの?
頭のどこかで声がする。
「あなたの探すものが何かは分かりませんが、私のような後悔がないように生きてほしいと思います」
最後にマザーはもう一度優しく微笑んだ。