第3章 白と赤
ぷつん。
と、急に体の緊張が解けた。
思考から雑念が消えていく。
自分の頭に銃口が突きつけられていることなんか、もはやどうでも良かった。
恐怖に支配されて動かなかった体は、今なら難なく動かせる。と、無意識に理解する。
とにかくあの子を助けないと。
今は、それだけ。
ストンと何かが落ちたような気がして、あとは反射のように体が動いた。躊躇いは、なかった。
一瞬で身をかがめるとそのまま後ろに足を振り上げて、背後の男の手から銃を弾き落とす。
同時にポケットに入れていた小型ナイフを取り出すと、振り向きざまに相手の胸の辺り目掛けて一気に突き刺した。
ずぶり、と怖気立つ感触。
驚愕に見開かれた目。
声は無い。
ただ無我夢中で、目の前の男が痙攣しながら動かなくなるまで深く、ナイフを突き立てる。
どろり。
溢れ出た血がナイフを伝って腕にまで垂れてきたけれど、ぬぐっている暇はなかった。とにかく必死だった。
男の体から完全に力が抜けると、間髪入れず地面に落ちた小型銃を拾う。
ナイフが突き刺さったままゆっくり後ろに倒れていく男の影から、異変に気付いたもう1人の男が足を止めるのが見えた。
何かを考える暇もなく、あたしは衝動的に小太りの男に向かって突進する。
銃の扱い方なんて知らない。
ローは教えてくれなかった。
一発撃った後二発目を続けて撃てるのか分からない。その一瞬が命取りになる。
──だから、一発で決める。
外さない程度に十分距離を詰めると、振り向きざまの頭に一発。
パァァァン
乾いた音が響き、血飛沫が飛んだ。
──真っ白な雪に散った赤い…。
きっと忘れられない旅になる。
そんな気がした。