第3章 白と赤
アニキと呼ばれた男がドアを開けた。
部屋に籠もっていた血生臭い空気がむわっと流れ出し、あたしの全身を包む。恐怖と気持ち悪さでまた吐き気がした。
男は醜い顔を近づけてあたしに聞く。
「お前で最後だろうな?」
髭面の汚らしい顔。
返り血のせいで赤黒く染まった服。
子供たちはこんなやつらに殺されたの?
なぜ、何のために。
「どうして…こんな…!」
激しく問い詰めたかったけど、ガチガチと震える歯の隙間からやっとのことで出たのはそれだけだった。
怖い。怖い。怖い。
殺人鬼の目だ。
人を殺すことを何とも思っていない奴の目だ。
こんな目を、あたしは知らない。
「おれがテメェに聞いてんだよ!早く答えろ!お前で最後か!?まさか街に逃げてねェだろうな」
小太りの男は苛立ったように胸ぐらを掴んできた。
力加減なんてまるで気にしてない。
人に暴力を振るうことに慣れた態度。
ぐっと息が詰まって、あたしは勢いと恐怖に負けて必死でコクコクと頷いた。
「そうか、なら…」
カチャリ、と後ろからトリガーに指をかける音。
──あたし、死ぬの?
呆然とした気持ちでそんなことを思った。
打開策なんて何も思いつかない。
いつもライにぽんぽん言い返す減らず口も今回ばかりは何の言葉も出てこなかった。
目を瞑ることもできないで、馬鹿みたいに震えるだけ。
──小さくて平和な島で暮らしていた小娘は、初めて会う本物の殺戮者を前にあまりにも無力だった。