第24章 暴走
そう思った途端、
───とぷん
あの感覚が落ちてきた。
じわじわと"あたし自身"が解けて、あたりに広がっていく。
薄く、広く、深く。
それはやはり、水の中にいるようで。
波が砂浜を飲み込むように、夜の闇が空を覆い尽くすように、あたしの感覚が、辺りを侵食していくのがわかる。
フロアに横たわる者たちの微かな息遣い、船着場におこるさざなみ、四方の通路の奥で重たく淀んだ空気の流れ。それら全てが、あたしの肌を、耳を、鼻を通して直に伝わってくる。
目を閉じたまま、風が教えてくれる情報に、より意識を集中させる。それはやがて、あたしの頭の中に色のない世界を構築した。
真っ黒な視界。
あたしが目を閉じているから。
その暗闇の世界の中に、透明の壁が聳え立つ。
多分それは、風が通れなかった場所。
それを感じ取った途端、さらに次々と現れる透明の壁。その間をすり抜けていくと、なんとなく道筋が浮かび上がってきた。
──これが風の通り道、なのね。
意識を広げるにつれて、頭の中の景色はさらに詳細なものになっていく。
辺りを緻密に写し取った立体的な地図。…いやというよりむしろ、その地図の中に自分が立っているような感覚に近い。
それほどまでにその世界は生々しく、迫力を待ってあたしに迫ってくるのだ。