第23章 ゲーム(Ⅱ)
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程なくして、あたしがいる通路には、あたし以外立っている者は居なくなった。
フロア全体でも随分と動く人が減ったようだ。喧騒もいくらかマシになった気がする。
「──はぁっ、…さ、すがに、つかれた…っ」
尋常ではない疲労感を感じ、思わずその場に膝をつく。鉛を詰められたように体がだるい。息をすると強烈に肺が痛んだ。
どうやら、自然現象と心を通わせるには、それなりの代償を払わねばならないらしい。
──…まあそりゃ、こんなに強大な自然の力を貸してもらおうだなんて、なんのリスクもなくできるわけない、か。
荒く息を吐きながらなんとか倒れ込むのを我慢していると、ふと、辺りに散らばった人影が視界に入った。
前半の海であった敵なんて比じゃないくらい、屈強な男たちだった。きっとそれなりに名の知れた海賊たちだったんだろう。
それをたった一人で倒してしまったことに、今更になってちょっと感動する。
全く怖いと思わなかった。体格も数も、向こうのほうが圧倒的に勝っていたのに、一切負ける気がしなかった。
──風を使いこなすコツを掴んだから…?
あたしはまだまだ強くなれるのかもしれない…。
期待して少し嬉しくなり、同時に、あることに気づく。
「…あ、れ。みえなく、なっちゃった……」
あんなに美しく見えていたはずの風の姿が、今は一切目に映らないのだ。
相変わらずその動きは肌に感じるけど、さっきまでの溶け合うような心地よさはなかった。
あたしはあたしで、風は風。
あたしには身体があったし、間違っても溶けて無くなることはない。その境界は、あまりにもはっきりとしているように思えた。
完全に、いつものあたしだ。
風の力を借りるには対価として体力を支払う。そして、借りられる時間の長さは、体力が持続する限り、ということらしい。
それから、もうひとつ。
「………、ったぁ…っ」
どうやら、この頭痛も気のせいではなかったようだ。
ギリギリと締めあげるような痛みをはっきりと感じ、あたしは小さくうめいた。頭の中に無理やり岩を捩じ込まれているみたい。
額から滲み出た脂汗が、頰を伝って首筋に流れた。気を抜けば意識を手放しそうになるけど、こんなところで倒れ込むわけにはいかない。