第23章 ゲーム(Ⅱ)
──ヴゥン…
一際大きな流れがきた。
目を移すと、凶悪な武器を振り翳してこちらに走ってくる男。持ち手の先から鎖が垂れ、棘のついた鉄球がぶら下がっている。
…女一人相手にあんな武器まで持ち出して。
そこまでして倒したい??
必死の形相はもう、見るに耐えない。
あたしはちょっと目をすがめて、男の周りの空気の流れを見る。あれを動かすことはできるんだ。それなら。
──ねぇ。その男を、止めて。
薄い膜が、あたしの意思に応じるように男の体に絡みつく。
「な、なんだ!?!?」
突然、自分の体の制御が効かなくなって慌てふためく男。そう叫ぶ音すら、振動となってあたしのもとに届く。
自分のやったことに。やろうとしたことがあまりにも簡単にできてしまったことに。
あたしは思わず笑みを浮かべてしまう。
──一人で生み出せる風には、限度がある。
それなら、もっと周りに頼ればよかったんだ。
風は、こんなに溢れているんだもの。こんなに真摯に、あたしに味方してくれるんだもの。
ぴん、と指で空気を弾いてみる。それに合わせて、男に絡まった風が、男の頑強な体をあっさりと引きずり倒した。
──"呼ぶ"でも、"読む"でもない。
これが、"使う"ってことね。
「おい、何が起きてる…?」
彼らには何も見えていないはずだけど、空気が変わったことには気づいたらしい。一瞬、怖気付いた表情が見えたけど、あたしはもう、止まらない。
もっといろんなことを試してみたい。
この力で何ができるんだろう。
もっと、もっと。
衝動に突き動かされるがままに、貪欲に力を使い、男たちを薙ぎ倒す。
死角から迫ってくる人影にも、完全に認識する前に体が動いた。空気をかき混ぜるように腕を滑らせると、あたしの動きに応えて波が立つ。
起こした波動を、あたしは刀を振り翳した男の横っ腹に容赦なく叩きつけた。ぐにゃり、とありえない曲がり方をする体。そのまま吹っ飛ばされた男は、区分けされたポートの底に沈んで、消えた。
ぶくぶくと泡だった水面はやがて穏やかさを取り戻したけれど、あたしの気持ちの昂りはまだまだ鎮まらなくて。