第23章 ゲーム(Ⅱ)
────ズ、ン。
体を包む空気が、急に、質量をもった。気がした。
「…──なに、これ」
こんなに、重かったっけ。
暖かかったっけ。
あたしの周りは、こんなに…。
突然の感覚に驚く。
この肌に感じる空気の重さが信じられない。
決して、あたしを押し潰そうとするものじゃない。だけど、虚しいだけの空白でもない。
優しく包み込んでくれるような。
安心させてくれるような。そんな重さ。
──どうして、急に?誰かの能力?
一瞬そう思ったけど、すぐに違う、と思い直す。
そんな突発的に生まれたものじゃなくて、これは。
もっと以前からあたしのそばにあった。
ずっと、知っていた気さえする。
──…ああ、そうか。
突然、ある考えが落ちてきた。
あたしが気づかなかっただけで。
意識を向けなかっただけで。
──この世界は、始まった時からずっと、一寸の隙もないくらいにびっしりと、この重たいナニカで満たされていたんだ。
こんなにも、"無"ではないナニカに、埋め尽くされていたんだ…。
腕を持ち上げると、あたしの動きに合わせ、ゆっくりと空気が混ざるのが分かる。まるで、水の中にいるみたい。
動かされた空気は、半透明のゆるやかな軌道を描いた。それには特に色があるわけではないのだけど、とても無色透明とは言いがたくて。
言うなれば、薄い繊細なヴェールをなびかせたような。そんな半透明の筋が、あたしの前を横切る。
はっとするほど美しく、空気中に引かれたそれは、瞬きする間に周りの空気と溶け合って消えた。あまりにも儚い。箒星のように一瞬のこと。
だけども、あたしがそれを残念に思う必要はなかった。
辺りを見回してみると、今消えたような半透明の筋がそこらじゅうにあったから。現れては消え、消えては現れ。半透明のヴェールが幾重にも重なり、混ざり合って。
この箒星が、空気の流れだということはさすがにわかる。
あたしの目にはなぜか、今まで感じはすれど見えはしなかったはずの"風の姿"が見えてしまうのだ。見間違いようもないくらい、生々しく、はっきりと。
変わったのはきっと、あたし自身の感覚の方だろうから、この瞳には何も映っていないのだろうけど。