第22章 ゲーム(Ⅰ)
「アイツが"死の外科医 トラファルガー・ロー"か。意外と面白そうなヤツだな」
二人が去った後、出し抜けにそう呟いたのは、あたしの隣にいるルフィの義兄弟だった。
もっと冷酷な野郎だと思ってたけどなァ、なんて、サボはのんきに言うけど、あたしはそれどころじゃない。
だって、結局、あたしの言うことはフル無視で行っちゃったじゃないの。あの人。
帽子は探さなくていいって言ったのに。
無茶しないでって、言いたかったのに。
いろいろと文句を言いたいけど、今更何を思ってもすでに去ってしまったものは仕方がない。あたしは小さくため息を吐いた。
それから、ふと、隣の彼を見上げる。
「ねぇ、ローのこと、以前から知ってたの?」
「当たり前だ。ルフィと同世代のルーキーは全員把握してる」
「あ、そう」
大真面目に返す男に少々呆れてしまう。
さっきも思ったけどこの人って、ルフィのこと大好きなのね。なんというか、一途に、一心不乱に、…盲目的に?
分かりやすい言葉で言うと。
「…ブラコンってやつね」
「そんな安っぽい言葉で片付けて欲しくないけどな」
「……」
小さく呟いたつもりだったんだけど、聞き逃さなかったらしい。素早く言い返され、あたしは閉口する。
…でも、事実でしょう。
「と、それを抜きにしても。あの男を知らん奴はグランドラインにはいないだろう」
「そうなの?」
反射で聞き返してしまったけど、まあ、それもそうか。アレだけ連日世経を騒がせていた人だもんね。
前半の海の旅路でも、意欲的に探さなくても自然と耳に入ってくるくらいにはハートの海賊団は有名だった。
最悪の世代、なんて呼ばれてるくらいだから、新世界でも注目度はかなり高いに違いない。
「名が知られてるなんてもんじゃねェぞ。多分お前が思っている以上に、海賊も海軍もそしておれら革命軍も、アイツらの行動を注視している。波に乗り遅れることが無いように、な」
「波?」
きょとんと首を傾げたあたしを見て、サボはわずかに笑みを浮かべる。
「時代の波だよ。……2年前の頂上決戦から、間違いなく世界は動き出しているんだ」
分かるようで、分からないサボの言葉。
あたしはもう一度首をかしげる。