第22章 ゲーム(Ⅰ)
「………帽子がない!」
「は?」
ローの手があたしの頭に触れた時に違和感を感じたのだ。同じように自分でも触ってみて、悲鳴じみた声をあげる。
突然真っ青になったあたしを怪訝そうに見るロー。
「黒色の帽子!!いつも被ってたのに、無いの!どこかに落としちゃったんだ……っ!!」
柔らかい髪が手に触れて初めて、あたしは自分が帽子を被っていないことに気づいたのだ。
あたし、いつから被ってなかった…?
思い出す限りでは、サニー号にいた時はまだあったと思う。うん、ローを送り出した時はまだ被っていた。
じゃあその後だ。
だけど、一体どこで………!?
「…大方、さっきの衝撃で吹っ飛んだんだろ。探してる暇はねェ、諦めろ」
ローは何故か若干白けた様子で、そんなことか、と言わんばかりの表情だ。帽子如きで騒ぐなと思っていることは、その声のトーンからありありと窺えた。
だけど、あれだけは諦められない。
「…でも、大切なものだったのっ。マリーに…っ、友達にもらったの…っ!!」
彼が遺したものは、あれしかないのに。
唯一、あたしにくれた形あるものだったのに。
ショックで目尻に涙が滲んだ。
どうして、気付かなかったんだろう。
きっとお城にいた時だ。
あの時落としたんだ。
今まで気づかなかったくせに、一度気づくと頭のあたりを吹き抜ける風が冷たく思えた。大事な拠り所を失ったような、どうしようもない寒々しさを覚える。
この国の何処かにあることは分かってるんだ。探せばきっと見つかるはず。そうポジティブに捉えようとしても、今この瞬間にあの帽子がそばにないという事実だけで、泣きたい気持ちになった。
この二年間、ずっと肌身離さず持っていたものだ。
辛い時も、苦しい時も、…死を覚悟した時も。
あれがあると、マリーがそばで支えてくれている気がした。
『ほら、立ち止まってる暇は無いよ。早く行こう』
そう笑う顔が思い浮かんで。
彼はいつだって、弱りそうな心を奮い立たせてくれた。
──いつの間にか、あの帽子はあたしの大事な一部になっていたの。