第22章 ゲーム(Ⅰ)
「ドレスローザの国民たち、及び客人たち」
突如として、ドフラミンゴの声が国中に響いた。
声のした方を振り向くと、王宮の方角に物凄く大きなドフラミンゴの顔が浮かび上がっている。どうやら巨大なスクリーンのようなものに映し出されているらしい。
「真実を知り、俺を殺してェと思う奴もさぞ多かろう…」
画面に映る表情からは、国民に対する罪の念は愚か、特別な感情は一切感じられなかった。まるで無機物に向かって話しているかのような淡々とした物言いで、彼は一方的に話を続ける。
「だから、"ゲーム"を用意した。この俺を殺すゲームだ。俺は王宮にいる。逃げも隠れもしない。……この命を取れれば、そこでゲームセットだ」
そこでドフラミンゴは言葉を切った。
街中の人々の顔に不安の影がよぎる。
「「ぎゃああああああ!!!」」
突然、どこかから悲鳴が上がった。
次いで誰かが、やめろ、と叫ぶ。
──パァン
その直後に聞こえたのはおそらく銃声だった。
「な、なに…!?」
明らかに尋常ではない騒音。
さらに人々の悲鳴が交錯する。
「フフフフフ。この"鳥カゴ"からは誰も逃げられない。暴れ出した隣人達は無作為に人を傷つけ続けるだろう」
ドフラミンゴの声だけが場違いにゆったりと聞こえた。
そうしている間にも、あちらこちらから爆発音や銃声が響き渡る。バラバラと聞こえていた悲鳴や怒号は街中を波のように広がり、混乱が混乱を呼ぶ。
ドレスローザが完全なパニック状態に陥いるまで、時間は殆どかからなかった。
「あの男…正気か」
「…どこまでこの国を滅茶苦茶にすれば気が済むんだ」
キュロスとリク王の方を見ることなんてできそうもなかった。
心が苦しく、たとえようのない悲しみが胸を締め上げる。
──…なんて、なんて酷いことをする人なんだろう。
銃声。悲鳴。人々が逃げ回る足音。
──この人は、10年前と同じことをするつもりなんだ。
人々が自らの手で愛する人を殺すような惨劇を、また繰り返すつもりなんだ…。
現実に起こっていることが信じられない。
………いや、多分、信じたくなくて。
あたしは呆然とした思いで、ただ、モニターの中の彼を見つめていた。