第3章 白と赤
ふと空を仰ぐと分厚い雲の向こうに淡い光が見えた。太陽だ。
もう少ししたら、空を覆うこの薄鼠色の雲も消えて、明るい日差しが顔を出すだろう。
雪が溶けて。
辺りは緑一面の丘。
そんな想像をして穏やかな気持ちになる。
島を出て3日しか経っていないのに、世界にはあたしが知らない驚きやわくわくで満ち溢れていた。
初めて出会う人、初めて見る生き物、初めて見る景色。
それらは当たり前のようにそこにあるけれど、自分から動かないと決して出会うことができないもの。
不意に胸の奥がぎゅっと熱くなった。
──こんな風にいろんな島を、国を見てまわりたい。
言いようのない衝動が身体中を駆け巡る。
あぁ。でもいけない。
こんなことを考えること自体、良くないことだ。
出たい、自由に生きたいという思いと同じくらい強く、出てはいけないという声がする。
あの温かな場所を出てはいけない。
絶対に後悔するから。
教会が好き。ミカヅキ島が好き、だから。
─────本当に、それだけ?
どこかで声がした。気がした。
歩みを止めて周りを見渡すけど、もちろん誰もいない。だだっ広い雪景色と、後ろには1人分の足跡。
急に悪寒が走って、思わず身震いする。
やだやだ。
余計なことを考えるのはやめよう。
今はジョナサンを無事届けることだけ。
それが一番大事だ。
腕の中ですやすやと眠るジョナサンを抱え直すと、もう一度前を見る。あと半分くらいだろうか。
早く、早く。
自慢の足で一歩一歩登る。
ポアロ教会への期待とジョナサンとの別れの寂しさを抱えながら。