第21章 約束
あたしの不安なんて、吹き飛ばしてしまうローの真っ直ぐな言葉。
生まれた経緯なんて、大して重要じゃないと彼は言う。あたしは、あたしだと。
生まれで決まるものもあるけれど、間違ってもそれが全てじゃない。本当に重要なことは、そんなので推し量れるものじゃない。…ローが言いたいのは、つまり、そういうことだろうか。
重くのしかかっていた不安がじんわりと溶かされていく。
視界が少しずつ明るくなっていく気がした。
「ローは、あたしがどんな生まれ方をしてても、気味が悪いと思わない?」
「だから何でそう思うんだ。お前がどういう奴かはよく知ってる。今更変わるもんじゃねェだろ」
「…そっか」
生まれで決まるものなんて、その程度のものか。
本当に大切なのは、あたしが今までどう生きてきたか。
どう感じ、どう考え、どうやって周りと関わってきたか。
自分の出生がどうであろうと、今更不安に思う必要は無くて。
───あたしは、"あたし"であればそれでいいのか。
そう言った人の顔を見て、思わず笑顔が溢れる。少し、息がしやすくなった。
ローの揺るぎない瞳に見つめ返され、唐突に思う。
───…ああ。
あたしはきっと、この人のこういうところに惹かれてたんだろうな。
あの森で、初めて出会ったとき。
ローは逃げてばかりのあたしに向かって、「戦え」と言った。「助ける」でも、「守る」でもなく。
あたし自身に立ち上がれ、と。
この人はきっと、そうやって生きてきたんだろう。
不治の病を患い、故郷を亡くし、大切な人たちを失い───絶望の淵に何度も立たされて、それでも逃げも隠れもしなかったんだろう。
何度も立ち上がって、運命に抗ってきたんだろう。
だから、この人がくれるのは、前を向かせてくれる言葉。
下を向いて蹲ってしまった時、立ち上がらせてくれる言葉。
そんな貴方だから、あたしはずっと───。