第21章 約束
───それどころか、あんなアオ色の液体の中で身体を授かったあたしは、果たして本当にみんなと同じ”ヒト”なんだろうか…?
偶然"ヒト"の形をした別の何かだったとしても、分からないんじゃないだろうか…?
ずっと話すことも歩くことも出来なかったのは、"ヒト"の身体に馴染んでいなかったからだとしたら……?
それなら、あたしは一体…。
「…あたし、本当に人間かどうかも分かんないじゃない」
ぽつりと、口からこぼれ落ちる。
一気に世界から引き離されたような気がした。
今まで当然のように思っていたことが塗り替えられてしまったら。本当は全部、偽りだったとしたら。
踏み締めていた足場が無くなって、深い海の底に沈んでいくような錯覚に陥る。頼るものも、すがるものもなく、ただ深く深く落ちていく感覚…。
本当か嘘か分からないまま、自分が何なのか分からないまま、あたしはこれからも生きていかないといけないんだ…。こんなどうしようもない不安を抱えて。
心細くてたまらないと思った。今まで以上に、自分のことが分からなくなるなんて、思ってもみなかった。
孤独感に襲われ、また涙がこぼれ落ちそうになった、その時。
前からふーっと息を吐く音が聞こえた。俯いてしまっていた顔をあげると、ローが呆れたようにあたしを見下ろしていた。
「んな小せェことに拘ってる暇があるなら、お前はドフラミンゴに近づかねェことだけ考えてろ」
「小さいことって…!」
あまりにも素気ない口調。人がこれ以上ないくらい消沈してるって言うのに、そんな簡単に…。
だけど、ローはそんなあたしの感情の機微なんて気にする様子もない。
「小せェだろ。この世界には巨人もいれば小人もいる。魚人も人魚も…喋るクマまでいやがる」
心底疑問だと言うようにあたしを見て、言葉を続ける。
「女の腹から生まれてねェことの何が問題だ」
あっさり言い切った彼に、あたしは何の言葉も返せなかった。
何か言いたい気持ちもあったけど、全然言葉が出てこない。唖然としたってのもあるけど、多分それだけじゃなくて…。
──……本当に、この人は。
ローはあたしを見て、わずかに目を細めた。
「生まれがどうだろうと関係ねェよ。そんなもん別に大したことじゃねェ。……お前はお前だろう」