第21章 約束
一瞬、あたしはローが泣くんじゃないかとすら思った。それほどに、彼が珍しい表情をしていたのだ。
だけど、あたしの涙が完全に乾く頃に、ローはすっかり元の様子に戻った。あの表情はあたしの見間違いだったんじゃないかと思うくらい、何の名残もなく。
横に置いていた大太刀に手を伸ばし、ローは淡々と言った。
「落ち着いたんなら、麦わら屋と合流する。早く行かねェとアイツがじっとしてるとは思えねェからな」
「…切り替え早」
「は?」
「なんでもない」
…でも、そっか。
ローは、あたしと話すためにわざとみんなと離れたところに降り立ったんだ。
遅れている作戦が気掛かりと思うのに、意外と、この人は作戦のことだけ考えているのではなかったらしい。あたしはローとちゃんと話したいと思っていたけど、彼も同じ気持ちだったということ、かな。
こんな時なのにちょっと嬉しくなってしまって、立ち上がったローを横目で見ながら、軽口を叩いてみる。
「あたし、ローが泣くかと思った」
「んなわけあるか。ふざけたこと言ってねェで早く…」
何の躊躇いもなく一蹴される。
彼らしくてくすくす笑っていると、ローの視線があたしの手元で止まっていることに気づいた。
「アウラ、それは何だ」
「あ、これは……」
そう言えば、ずっと手に持っていたんだった。
少し皺が寄ってしまったそれを広げる。
さっきドフラミンゴがあたしに渡したもの──16年前、あたしと一緒にマリージョアから持ち出された、一通の手紙。
これはロシナンテの遺品だと、ドフラミンゴは言っていた。つまり、彼が亡くなってから発見されたものだと。
それなら、ローはこの手紙の存在を知らないんじゃないだろうか。もちろん、書かれている内容も…。
「ドフラミンゴがくれたの。コラさんの荷物の中から見つかったんだって。あたしの過去が書いてあって…」
「貸せ」
言いかけたところで、ローはサッとあたしの手の中からその手紙を抜き取った。読んでいい、とは言ってないのに、勝手に手紙を広げる。
「まあ、ダメと言ったところで結局読むんでしょうけど…」
一人でぶつぶつ呟きながら、ローが手紙に目を通すのを待つ。
やがて、本当に全部読んだの?と思うくらいの速さで数枚の手紙を眺めた後、ローは軽く息を吐いた。