第21章 約束
そんな彼に、あたしも精一杯の気持ちを返したいと思う。
ぐちゃぐちゃになっていた頭の中の思いがゆっくり解けて、寄り集まって、なんとか形を作る。
しばらくは悲しくなってしまうと思うけど、少なくとも、どうしようもない後悔をして泣くのは、もう辞めよう。いつまでも泣いて立ち止まっているのは、救ってくれた人たちにも申し訳が立たないから。
──なにより。
あたしが後悔しているままじゃ、きっとこの人は救われないから。
湿った声を抑えて、できるだけはっきり言えるように唾を飲み込む。
「…ロー、あのね。あたし、あの人のことも全部思い出した。忘れてた気持ちも全部思い出した。だけど、それでもやっぱり、このままがいい」
そうだったかも知れない。
だけど、そうじゃなかったかも知れない。
そういう不確かなことが毎分毎秒決まって、積み重なって、そして今がある。
後ろを振り返りたくなるけど、どれだけ願っても過去は変わらないことは、いやと言うほど知ってる。そういう後悔はもう、何度も経験した。
だからもう、もしそうだったら、とか、そうじゃなかったら、とか、考えないことにするの。そういう過去も想いも全部ひっくるめて、今のあたしがあって、あなたがあるわけだから。
あたしは、"今"この瞬間だけを見ようと思う。
──あなたが今ここに居てくれることだけを、考えようと思うの。
「あたしは…、ローに会えて本当に良かったと思ってる。あの人と生きられなくても、貴方に会えたからあたしは前を向いていられる。これ以上は望まないよ」
辛い想いを抱えて、それでも貴方はきてくれた。
あの日、あの島に。
あたしに会いに。
「あたしの人生であなたに会えたことが一番うれしくて、幸せで…、きっとそれは、何があったとしても変わらないの」
──あの人とは一緒には生きられなかったけど。
「ロー。生きてくれて、あたしに出会ってくれて、ありがとう」
──それでも、あたしは貴方に会えたからこれで良かったと。
心の底からそう思うよ。
涙で濡れた顔で微笑んでみせると、ローは少し驚いた表情をした後、
「…ロー?」
僅かに笑ったのだった。
困ったように、だけど安心したように。
そんなふうに彼が微笑うのを、あたしは初めて見たの。