第21章 約束
あたしは、この人に何を言ってあげられるんだろう。きっと誰よりもロシナンテのことを大切に思っていたこの人に。
──悪いのはドフラミンゴで、あなたが自分を責める必要はどこにもないでしょう。
──あなたが苦しむことはないの。
だから、もう、自分を許してあげて。
…ちがう。
そんな言葉、ローはきっと望んでない。
言ったところで、何の慰めにもならない。だってもうずっと長い間、この人は過去と向き合ってきたんだもの。
ドフラミンゴが悪いのは分かっている。
頭の中ではわかっていて、それでも。
ドフラミンゴが許せないのと同じくらい、自分のことも許せていないんだ。
あの人の死を純粋に悲しむことすらできずに。
あたしが全部忘れて能天気に生きている間も。
あなたはずっと、そんな想いと戦っていたっていうの…?
「ぅうっ…っ、ぅ…ごめ…ん…っ」
ローの指を強く握りしめたまま、あたしは子供みたいにしゃくりあげて泣いた。ドレスローザの熱い風が頬を伝う雫を乾かそうとしても、あたしの胸の内の方がずっとずっと熱くて。思いが溢れて、止まらない。
知らなくてごめん。
知ろうとしなくて、ごめん。
──一人で抱え込ませて、ごめんなさい。
次から次へと頬を流れ落ちる雫を空いている方の手で払いながら、ローはあたしが落ち着くまでずっと黙っていた。
うまく言葉にできない自分がもどかしい。
伝えたいことはいっぱいあるのに。
ちゃんと話したいのに。
口にしようとすると何を言っても全部軽く思えるような気がして、どうしても言葉にならない。あたしがあなたに言いたいのは、そんなに簡単なことじゃないのに。
この気持ちを言葉にするなら。
あたしが今、あなたに伝えたいのは。
「ロー、…あのねっ」
滲む視界で、唯一ローだけがはっきり映る。
ぎゅっと握りしめた手に少しだけ力が返された。ローは急かすこともなく、促すこともなく、ただ黙ってあたしの言葉を待ってくれる。
それだけで、ひどく心が落ち着いてくるのを感じた。
思い返せば、こんなふうに彼の本音を聞いたのは初めてかもしれない。
いつも飄々として、あまり感情を表に出さないロー。だけどたぶん、今はいつもより少しだけ気を許して話をしてくれている。そんな気がする。