第21章 約束
一気に状況が変わったのに、様子が変わらない男がひとり。
ドフラミンゴは他の何も目に入ってないかのように、相変わらずローだけに言葉を投げる。
「邪魔が入ったが…。ロー、取引はどうする」
「…気が変わった。どうやら回りくどいことするより、てめェの首を獲ったほうが手っ取り早そうだ」
「交渉決裂、だな」
声が聞こえた。
と同時に、何の前触れもなくローが能力を発動したのが分かった。
…いや、前触れはあったんだと思う。
あたしが気づかなかっただけで。
その時ドフラミンゴが動き出していたことにあたしだけが全然気づいてなくて。
彼が放った糸がキラリと光り、ようやく、まずい!と思った時には──。
「トラ男!ゆきんこを頼む!」
「当たり前だ!おれに命令すんな!!」
ルフィはドフラミンゴに向かって反撃に出ていたし、ローはあたしと共に別の場所に移動して攻撃をかわしていたのだった。
──ドガン!!!!
ちょうどさっきまであたしとローがいた場所の後方、隣の部屋に続く壁が大きく音を立てて崩れ落ちる。頑丈な石の壁がいとも簡単に崩壊するのを見て背筋が凍った。
あたしの前に立つローの背中から、張り詰めた空気が伝わってくる。取引を辞めてくれたのは嬉しいけど、とてもそれを純粋に喜べる状況ではなさそうだった。
緊張感が漂う戦況に、ごくりと息を飲んだ時。
───あれ?
今、壁の向こう側に…。
一瞬、視界に何かが映った気がして、目を凝らす。
しばらくガラガラと音を立てていた瓦礫たち。やがて壁がなくなって、隣の部屋が見える状態になる。
そしてあたしはその部屋に一人の男性が座り込んでいることに気づいた。大柄で逞しい、白髪の男の人だ。
「ねぇ、ロー、隣の部屋に人が…」
言いかけた時、あたしの声を遮って声が響き渡る。
「リク王!!!10年間お待たせして申し訳ありませんでした!!」
声がした方を振り向くと、ルフィと戦うドフラミンゴ目掛けて突進していく一人の男の人。大きな剣を振りかぶっている。…さっきまであんな人いたっけ…?
そして。
「──今助けに来ました!!!」
その男が振り抜いた大剣が、確かに。
そう、確かに。
ドフラミンゴの首を斬り落としたのだった。