第20章 遺書
言おうとして、息が詰まる。
急に言葉が喉の奥でつっかえて出てこなくなった。
憎いし、嫌いだし…許せない。
それは確かだ。
ロシナンテを殺したのは間違いなくこの人だ。
父を殺したのもこの人。
恨んで当たり前。
──なのに。
悲しみと後悔と怒り…様々な感情が渦巻いて、一度止まったはずの涙がまた溢れ出てくる。
「フッフッフッ。迷っているな。それでいい」
「…迷ったんじゃない。あたしはただ…」
迷ったんじゃない。
大切なあの人を殺したこの人が憎くて、たまらない。それは変わらない。
だけど。
どうしてだろう。
どうして、こんなに涙が止まらないの。
「悔しいか」
「……え?」
悔しい?…そうじゃない。
──そうか、あたしは。
「ちがう…、かなし…いの」
今、この人のことを憎いと思うのと同じくらい、どうしようもなく哀しいんだ。
唯一の血のつながった家族だと聞いた。
それを意識していたからなのか、分かんないけど、少なくともこの人に対してずっと嫌な感情は無かった。裏の世界で悪どい商売をしていると聞いた時も、恐ろしい人とは思ったけれど、それは嫌悪感ではなかった。
そしてさっき、やっとこの人に会った時。
懐かしくて、泣きたくなるくらい会いたかったと思った。この人をずっと探していた、と。
だけど、そんな人が、あの人を殺した。
ローの大切な人を殺したんだ。
その事実が、今更になってこんなにも哀しいの。
「……っ……っっ」
ドフラミンゴが離したあたしの髪が、力なく地面に垂れる。その様がどうにも、非力で、弱々しく見えた。
──なんて情けないんだろう。
あの島を出て、色んな経験を経て、命のやり取りだって何度もして、随分成長したと思っていた。
今までの自分とは違うって。
あたしはこんなにも強くなったって。
だけど、やっぱり何にも変わってなかった。
大切な人を殺した憎むべき相手を前にしても、あたしはそれを責める言葉すら持ち合わせていないんだから。
ただ泣くことしかできないなんて。
…ほんとに、笑っちゃうくらい、あたしは無力だった。