第20章 遺書
酷い頭痛が去ると、目の前の男が自分の実の兄だということを思い出すくらいには、思考が回復してきた。
あたしの唯一の血の繋がった家族で。
この人が、父と兄を殺したということを。
「…ねえ、……どうして家族を殺したの」
「特別な理由はない。必要ないと判断した。ただそれだけだ」
「ロシナンテも?」
「ああ。アイツを生かしておいたのは、不老手術をさせるためだ。どちらにせよ、オペオペの実を食べた後は俺のために死んでもらうつもりだった」
「……最低ね」
改めて、あたしの髪を手のひらの中でゆるゆると操っている人を見る。
ドフラミンゴがあまりに無感情に話すから、返す言葉も自然と冷たくなる。本当は思いっきり詰ってやりたかったけど、声を出すだけでまた酷い頭痛がしたから今のあたしにはこれが限界だった。
「オペオペの実が手に入らなくて…ローの手に渡って残念だったね」
「フフフフフ…そうだな。お陰で俺の手で実の弟を殺すことになった。ローがあの時大人しく実を渡してくれればあんなことにならずに済んだんだが」
ドフラミンゴの言葉に、思わず目を大きく見開く。
──何を、言ってるんだ、この男は。
「あの人を殺した、あなたがそれを言うの?」
まるで、ローが渡さなかったのが悪いと言わんばかりの言い草。
ローが実を渡せば自分の手で殺さずに済んだ…?
そんなの、ちっとも思ってないくせに。
「ロシナンテが死んだのは、あんたのせいでしょう…!!ローは関係ない!あんたが…っ!!」
思いっきり睨みつけてやる。
勢いでまた一粒、二粒雫が目尻から溢れた。
あたしを挑発するためにそんな言い方をしたのだとしても、腹が立ってたまらなかった。
ローがどれだけロシナンテを大切に思っていたか、あたしは知ってる。ずっと、そんな彼を見ていたんだから。
それを、この男は…。
ドフラミンゴは激昂するあたしを見て、面白そうに唇を捲り上げて笑った。
「フッフッフッ。絶望から這い上がってきた奴の捨て身の目ほど震えるものはないが、お前のその目は悪くないな」
「あんたに気に入ってもらわなくて結構よ」
「つれないな。…俺が憎いか?」
「…っあたりまえじゃないの!!憎いに決まって…」