第20章 遺書
彼女は最後にあたしに謝ったけど、謝らないといけないのはむしろあたしの方だった。
あんなに優しくしてくれていたのに。
あんなに愛してくれていたのに。
それに気づかず、何も返さず。
ただ、彼女を置いて逃げた。
「ごめ…っ、うぅっ……ごめん…なさ…っ」
言葉にならない悔恨の念が喉を焼く。
声も出なくなって、苦しくてたまらなくて。
だけどこの痛みはどこにも行き場がない。
どんなに後悔して泣いたところで許されようがなかった。
だってあたしは、全てを投げ打って助けてくれたことも、彼女の存在すらも全部。
今の今まで忘れていたんだもの。
「…やっと思い出したか」
頭痛でくらくらする。
なんとか顔を上げて声がした方を見ると、涙でぼやけた視界にピンク色のコートが映った。
男は徐に話し出す。
「女が子供を連れ出すところを見たと言う奴はいた。だが、その後崖から落ちたのは女一人だけだったと言う。いつどこに隠したのかと思っていたが…。まさか愚弟が一枚噛んでいたとはな…」
「あの人のことを…そんなふうに、言わないで……っ」
あなたが愚弟と呼んだその人は、誰よりも優しくて、勇敢な人だ。
あたしの、大切な人だったの。
「…っ、ロシナンテは…あたしを助けてくれたの……」
涙が地面に吸い込まれるように落ちていく。
ロシナンテも、そして彼女──サラも。
命を懸けて、あたしをあの場所から救い出してくれた人たちだ。
今更、何を言ったところで変わらない。
許されようだなんて思ってない。
だけど、彼らのことを蔑む言葉だけはどうしても我慢できなかった。
ドフラミンゴはそんなあたしを見てしばらく黙った。それから、地面に垂れたあたしの髪を何でもないように一束掬い上げると、ぽつりとつぶやく。
「助けた…か」
彼が今、何を考えているのか分からない。
ただ、零した一言が何か含みを持っているようで…。