第20章 遺書
「……ぁっああ……あああっ……っ」
喉の奥から、掠れた獣じみた声が出た。
自分の声じゃないみたいだった。
鋭利なもので抉り取られたみたいに、心の奥がずきずきと痛む。地面に蹲ったまま、両手を握り締めて胸を抑えたけど、その痛みは到底我慢できるものじゃなかった。
行き場のないどうしようもない想いが目尻を、頬を、顎を伝って地面に染みを作る。
「……レヴェリーの…っ日だった…」
あたしがマリージョアを去った日だ。
あたしは彼女を置き去りにして、あの場所を去った。
「…ぅっ…──うぅ…っっ」
彼女の首にあった重そうな輪っか。
聞こえた音は、きっと気のせいじゃ無かった。
あの影が誰だったのかくらい。
天竜人が何をしたかくらい。
言われなくたって分かった。
『コイツを逃した女は死にました。その時に一緒に死んだんです、コイツも』
ロシナンテが言ってたのは、つまり。
そういうことだったんだ。
彼が泣いていたのは、そういうことだったんだ。
あたしはまだこの世に生まれ落ちて数年しか経ってなくて、ものすごく幼くて、理解できないのが普通の年齢だった。
だけど、あの当時は全てを知っていた。
今以上に全部分かっていたの。
あたしが生まれた意味も、何故マリージョアにいるのかも、これからどうやって生きていくのかも。
研究所の中、アオ色の水に包まれて、身体中に管をつけられて。ずっとずっと、この世に生まれ落ちる時を待っていた。
ドフラミンゴやロシナンテと年が離れているのも当然で。だって、あたしは"両親が死んでから生まれた"から。
つい数日前に訪れた研究所を何故か知っているような気がしたのも。通気口の場所を知っていたのも。
緑を探してあそこから抜け出していたのは、あたしだったから。
マリージョアが懐かしかったのも全部。
──あたしの記憶だったの。