第20章 遺書
少し話がそれましたが…──お嬢様に、そんな運命を背負わせてはならない。こんな場所にいていいはずがない。
私は常にそう思っていました。
生い立ちは違えど、彼女は紛れもなくドンキホーテ一族の末裔です。母を助け、私に居場所を与えてくださった、あの優しい旦那様と奥様の血を引いた娘なのです。
何としてでもあの人たちに恩を返さねばならないと思っていた私のもとに、お嬢様が来られたことはきっと運命だったのでしょう。
生まれながらに背負わされた運命からお嬢様を解放すること。きっとそれが、私が此処にいる理由だと、そう言われたような気がしました。
そして今日、長年の思いを実行する日がきました。
いよいよ明日、レヴェリーが開幕します。今回の数ある議題のうち、最も天竜人の注目を集めるテーマを私は知っていました。私は、世話係だったのですから。
つまり、そう。
明日、彼女の存在を世界に公表します。
そうなれば、きっともうこの世界のどこにも逃げ場所は無くなってしまうでしょう。お嬢様は一生この場所に囚われてしまう。ですから、今日が最後のチャンスです。
どうか身勝手な私を許してください。
この場所から解放するにはもう、こうするしかないのです。
できることなら、私もお嬢様と一緒に生きたかった。
彼女が健やかに成長し、優しく、気高い娘に成長していくのを、そばで見守っていきたかった。
貴方と彼女に仕え、共に生きることができたのなら…どんなに嬉しいことか。
しかし、夢物語を紡いでも現実は変わりません。
私はもう、覚悟を決めました。
貴方に辛い役割をお願いしてしまうことを。
身勝手におそばを離れてしまうことを。
どうか、お許しください。
そして、愛してやまないお嬢様へ。
貴女の運命は決して穏やかなものではないかも知れません。
ですがこの先何があっても、何を知っても。
貴女のことを何よりも深く愛している人がいることを、どうか忘れないでください。
サラ・ローレンス