第20章 遺書
天竜人は誰しも己の血筋に誇りを持っています。彼らは、先祖代々受け継がれてきた"高潔"な血に、濁った血が混じることをなによりも嫌います。
そのため、下界から奴隷を買ってきて子を作りはすれど、その者を血族に加えることは決してしません。ちょうど、私のように。
また、下界の者を下等種族と呼び、同じ空気を吸うのも嫌がる彼らは、一度下界に降りた者を同族とは見做しません。下界の空気を吸うと、その血まで汚れると思っているようでした。
ですから、ホーミング聖がいくらマリージョアに戻ることを懇願されても、再びここに上げることはどうしてもできなかったのです。
その一方で、彼らはホーミング聖ご一家の"血筋"までもを捨てるわけにはいかなかった。
世界貴族同士で婚姻を結び、誇り高き血を絶やさぬようにしている彼ら。そんな彼らにとって、ドンキホーテ一族の一家の血筋が丸ごと潰えてしまうのは、あまりにも勿体無いことだったのでしょう。
天竜人たちは、ホーミング聖と奥様がマリージョアを去る際、それを受け入れる代わりにある条件を突きつけました。
それは、"細胞の一部を残す"ということです。細胞…つまり、血統因子が必要だったのです。
天竜人の血統因子。
そしてパンクハザードでの実験。
……きっともうお分かりでしょう。
そうです。──彼らは、旦那様と奥様の血統因子を元に、"新しいドンキホーテ一族"を造ろうとしたのです。