第20章 遺書
≪○年★月○日≫
今日、不思議なことを言われました。ちょうど、お嬢様を外に連れ出そうとしていた時のことです。
「散歩?」
後ろから声をかけられて慌てて振り向くと、幼い少年が小首を傾げていました。私は彼の髪の色を見てぞっとしました。柔らかい金色の髪をしていたからです。
ここにいる金色の髪をしている者は、つまり、天竜人ということになります。
「そんなに怯えなくても大丈夫だよ。誰にも言わない」
「それはなぜ…でしょうか」
「言ったところで何もないからだよ。放っておいてもその子はここから出ないんだ。…一生ね」
少年は大人びた口調で言って、少し笑いました。
私は彼の言葉に引っ掛かりを覚えます。
お嬢様はここから出ない…?
それはもちろん、子供だからそうでしょう。
この首輪がある限り、私が連れ去ることもできません。
ここを出られないのは確かでしょうけど…。
一生、というのはどういう意味でしょうか。
私は不審に思って彼に尋ねてみようとしました。しかし。
「もうすぐ世界会議(レヴェリー)だ。楽しみだね」
何かを言う前に、彼はそう言ってふらりといなくなってしまいました。