第20章 遺書
≪○年△月×日≫
今朝も、私が朝早くにあの部屋に行くと、お嬢様は一人で座り込んでおられました。いつも私が朝向かう前に起きていらっしゃいます。泣き言も言わずに、たったひとりで。
私の仕事は、彼女が健やかに大人になられるまで世話をすることだと言われましたが、彼女にとって私はあまり必要ではないことは出会って数日で気づきました。お嬢様はきっと私がいなくてもこうして一人で座っておられることでしょう。
ですが、こんな幼い子供がこのような状況で放置されてよいわけがない。
私はお嬢様を楽しませることに注力することにしました。
遊び道具を持って行ったり、本を読み聞かせたり、調理室から食べ物を拝借したりして、いろいろと頑張ってみましたが、どれもいま一つといったところでした。
諦めず試みる中で、唯一彼女の反応を得られたものがありました。
それは、彼女を"外に連れ出す"ことでした。
警備の者に口止めをし、お嬢様と共にパンゲア城を出てレッドラインの端の方まで歩いて行くと、彼女は眼下に広がる青い海を見て初めて大きく目を見開かれました。
風が彼女の髪を弄び、ゆるく巻き上げます。彼女の澄んだ瞳に青い空が映り込み、まるで宝石のようでありました。
とても、気に入ったのだとその時分かりました。それだけのことで、私は本当に嬉しくて、たまらなくて。
私は出来るだけ彼女を外に連れ出すことにしました。
見つかればお咎めを受けるでしょうが、そんなの構いません。お嬢様が明るい光の下で眩しそうに目を細めるのを見ると、またこの子を外に連れ出してあげたいと思うのです。
そんな日が続き、お嬢様は随分と私に慣れてくださったようにも思います。
幼子を抱くことに慣れていない私でしたが、彼女は前よりいくらか安心して身を任せてくださるような気がするのです。そうすることが彼女にとっても自然であるかのように。
夜になり、絵物語を一緒に眺め、彼女が簡素な寝床に入るのを見届けてから、ここに戻ってきています。
そうして過ごす彼女との日々は、とても居心地がよいものでした。