第3章 白と赤
あーだめだめ。あの人のことは考えない!
思い出すと苦しくなるから思考を止める。
今更どうでもいいことだ。
実際どのくらい強くなれたのかは分からないけど、ミロが目をキラキラさせてびっくりしているのは少し気分がいい。
「おまえ強ェな!おっちゃんらにやられるときはこう、力任せにぶん投げられるって感じだけど、おまえのはすげェ強い風でドンッて飛ばされるみてェだ!」
あたしはそんなミロを見て少し笑ってから、地面に寝っ転がったままの彼の前にしゃがんで言う。
「まずはいっぱい食べて大きくなれ。そしたら今みたいに飛ばされることもなくなるよ」
今はあたしより低い身長だけど、あと数年もすればぐんと大きくなるだろう。筋は悪くないし、この子はきっと強くなる。
ぐしゃぐしゃと寝癖だらけの頭を撫でてやる。
「あ、これネコの耳だっけ」
初日に聞こえてきた冗談をふと思い出して笑ってしまった。
耳潰しちゃったなと言って撫でるのをやめると、子供扱いされたと思ったのかミロは拗ねたように頬を膨らませる。
「あれは冗談だって。悪魔の実なんて食ってねェよ」
「分かってる」
「機会があっても絶対食いたくねェよおれは。海で泳げなくなるの、イヤじゃん」
ニカっと笑って言う。
…確かにそうね。
能力者になると海に嫌われカナヅチになる。
それは有名なことだ。
ローだってあんな完璧超人みたいな雰囲気で、泳げないんだもんね。
泳げないローを想像して余計に笑ってしまう。
そんな様子もちょっと見てみたかった。
「そうだな」
この船旅ももうあと少し終わり。
帰りは多分別の船になるだろうけど、またミカヅキ島の港で会えるといいなぁ。
ミロを見ながらそんなことを思う。
ミカヅキ島から離れるにつれて寒さは厳しさを増し、日が落ちると海上には白いものが舞い始めるようになっていた。
──船で過ごす最後の夜はゆっくりと更けていった。