第20章 遺書
≪○年☆月●日≫
旦那様と奥様の訃報の後、母は急激に体調を崩しました。
もともと体の弱い人だったから、ショックすぎる知らせに体の方が耐えられなかったのでしょう。ですから、10歳の私を残し、その後すぐ旦那様と奥様の跡を追うようにこの世を去ってしまったのは、無理もない話だったのかもしれません。
私はこのマリージョアでたった独りになってしまいました。
生きる理由も希望もありませんでしたが、救っていただいた命をただ捨てるのも申し訳なく、無為に日々を過ごしておりました。
数年経ったある日でした。失踪された二人のご子息──ドフラミンゴ様とロシナンテ様が生きていらっしゃると噂に聞いたのは。
彼らは、"ドンキホーテファミリー"と名乗る海賊団に属していらっしゃいました。
あの後どうやって生きてきたのか。
なぜ、海賊という道を選んだのか。
色々と思うことはありましたが、何よりも先ず、生きていてくださったことに自然と涙が溢れました。心の底から、彼らの無事を嬉しく思いました。
そのような吉報を聞いてからさほど時を置かずして、さらにホーミング聖一家に関する噂が舞い込んできました。こんなふうに何度も取り沙汰されるのは、彼らがマリージョアを去って以来です。
噂は、ご子息の生存報告のようなはっきりとした事実ではなく、雲を掴むようなあやふやなものでした。
それは、世界政府で行われている極秘の研究についてでした。
世界政府の研究所が新世界にある、というのは昔聞いたことがあります。確か、"パンクハザード"とかいう島だったはず。
そこでは、世界有数の頭脳を持った研究者たちが、日夜研究に取り組んでいるそうなのです。中でも、Dr.ベガパンクという者は500年先を行くと言われているほど優れた研究者と聞きます。
そんな彼らによって、今後の世界の命運を決めるとも言われるほどの重要な実験が行われており、成功すれば天竜人にとって非常に大きな意味を持つ、とのこと。
それがどうやら、ホーミング聖一家に深く関わる実験らしいのです。
ご子息たちの噂に比べるとあまりに脈絡のない話だったので、当時の私はそこまで深く考えておりませんでした。
マリージョアで生まれては消える泡のような噂話の一つ、と当時は思っておりました。