第20章 遺書
天竜人の目に触れぬように暮らすのは神経を使いますし、変わらぬ日常に気が滅入ります。なので、私たち使用人は時折彼らの会話を盗み聞きすることで世の中の情報を拾い、日々の経過を実感しておりました。
その知らせが私の耳に入ったのは、旦那様がマリージョアを立たれて僅か2年後でした。そしてそれを耳にして、あまりのことに私は話すことはおろか、息をすることすら忘れてしまったのかと思いました。
それほどに、私にとって衝撃的な内容だったのです。
一報は簡潔に伝えられました。
奥様はご病気で身罷られ、旦那様は殺害された。──あろうことか、ご子息ドフラミンゴ様の手によって。
その無味乾燥な噂で、私は、あのお優しかった旦那様と奥様がもう既にこの世のどこにもいらっしゃらないと知らされたのです。
2年の間、ご家族の噂は全くと言っていいほど入ってきませんでした。ですから、私は何の疑いもなく幸せに暮らしていらっしゃるんだろうと、そう思い込んでおりました。
訃報を聞いて初めて、その2年間が決して幸せなものではなかったと知りました。
民から壮絶な迫害を受けられ、あれほど決意を固めて出ていかれたはずなのに一度はマリージョアに戻してほしいと懇願された、と。それほどに、下界での暮らしは凄まじいものだった、と。
何がいけなかったのか。
どこから間違っていたのか。
どうしてあの方があのような死に方をせねばならなかったのか。
あの方は決して民を虐げるような方ではありませんでした。他の天竜人のように、奴隷を囲い、悪辣な振る舞いをされる方ではなかった。
その一族に生まれてしまった。
ただそれだけ。
こんなところに生まれたのではなければ、皆に慕われ、敬愛されるお方であったはず。
間違ってもあんな風に……あんなに惨い死に方をされてよいお方ではありませんでした。民から糾弾され、迫害されて、愛して育てた息子に殺されてよいような人ではなかった…。