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マリージョアの風【ONE PIECE】

第20章 遺書


旦那様がマリージョアを去られてから、私たち親子は本来の意味で"天竜人の使用人"として生きることになりました。


もちろん、旦那様は何の手立てもなしに私たちをマリージョアに置くことはなさいませんでした。最後までお優しい方です。


旦那様は同じドンキホーテ一族であるミョスガルド聖に、ほとんど全ての使用人を託して出ていかれました。親戚筋にあたる彼ならば、私たちを悪いようにはしない、とのことでした。


確かに、彼の言う通りミョスガルド聖は私たちに酷い目に遭わせるようなことはなさいませんでした。掃除、洗濯、料理、そして、出来るだけ天竜人の目に止まらぬように暮らすこと、それだけを命令されました。


このマリージョアで珍しいことに、私たちはただの使用人として生きることができたのです。



ですがそれは、ミョスガルド聖に慈愛の心があったからではないことに、私たちは気づいておりました。


ミョスガルド聖が私たちをただの使用人のように扱ったのは、ただ、彼が "人間の奴隷に興味がなかった" だけのこと。


当時の彼は、魚人にひどく執心だったのです。常に強い魚人の奴隷が欲しいと愚痴をこぼしておりました。そのおかげで、幸いにも私たちに毒牙が及ぶことがなかったという、ただそれだけのことだったのです。



ホーミング聖と決定的に違ったのは、ミョスガルド聖は多くの天竜人と同じく、使用人を"人"ではなく"奴隷"と見ていたことです。


現に、使用人を引き渡されて彼がなによりも一番初めに行ったことは、私たち全員に"奴隷用の首輪をつける"、ということでした。


逆らう者に死を与えるための首輪。
天竜人の所有物であるという証。


あの日から、私の命は私だけのものではなくなりました。






私は、ホーミング聖ご一家と暮らしたあの日々が懐かしかった。春の暖かい陽だまりのような思い出の中の日々。母に慰められながら、何度も何度も、あの頃に戻りたいと寝具を濡らしました。



それでも、過酷な現実を生きることができたのは、近くに母がいて、そして、かの方々が幸せに暮らしていらっしゃると、そう信じていたからです。


いつかまた、お会いできる日が来ると、そう信じていたからなのです。





…まさか、想像を絶する地獄を経験されていたなんて、露ほどにも想像しておりませんでした。




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