第20章 遺書
…まずは、そうですね。
お嬢様について書く前に、ドンキホーテ一族のとあるご一家のこと、そして、彼らに起きた悲劇のことを書くのがよいでしょう。
此処は、聖地マリージョア──誰もが知っての通り、天竜人の住まう土地です。
世界貴族以外の者は下等生物と見做されるこの世界で、さらに圧倒的な強権支配が行われる場所。
天竜人こそが絶対的頂点に君臨する一族──此処に住む者は等しく、それがこの世界でただ一つ、揺るがない事実だと教えられて生きてきました。
天竜人こそが法であり、彼らに逆らう者はたとえ一国の王であろうと命の保障はない、と。
ドンキホーテ一族は、そんな聖地マリージョアに住む世界貴族です。その昔、新世界のどこかにある"ドレスローザ"という王国を治めていた一族の末裔、と聞いております。
私はこのマリージョアで長年ドンキホーテ一族に仕えてまいりました。25年前、今は亡き旦那様──ドンキホーテ・ホーミング聖に命を救っていただいた時からずっと。
旦那様は、天竜人の血を色濃く受け継ぎながら、"天竜人らしからぬ"御心を持ち合わせたお方でした。
ここで働く者はみな、マリージョアに連れて来られたが運の尽き、天竜人に死ぬまでこき使われ、つまらない人生を送るものと覚悟しております。
しかし彼は、最上の地位にいながら、驕ることも人々を虐げることもなさいませんでした。他の天竜人から蔑視されても一切態度を変えず、弱き者に手を差し伸べてくださったのです。
彼は生涯ずっと、天竜人、奴隷、使用人誰に対しても平等でありました。
マリージョアには、彼に救われた者が無数におり……かく言う私もその一人だったのです。