第19章 ドンキホーテ・ロシナンテ
「──本名はドンキホーテ・ロシナンテ。俺の弟であり、右腕であり、そして、俺を裏切った男だ…」
「……裏切ったって」
「海軍に属し、ローにオペオペの実を食わせて逃げようとした。…そして、奴が犯したもう一つの裏切りが、その中にある」
一枚めくって二枚目の写真に視線を移すと、それも同じ構図の家族写真だった。
ただ、一枚目とは若干違うところがあって、二枚目の写真には4人の家族の横に、家政婦のような格好をした女性と小さな女の子が写っていた。女の子の方に少し見覚えがある気がした。
「それじゃない。手紙の方だ」
ドフラミンゴに手紙を読むように促され、あたしは名残惜しく思いながらその写真を傍によける。
そして、一行目に目を通し、あたしは目を見開いた。
「これって……」
「フッフッフッ。興味深いだろう…。──ちょうど16年前だ。ロシナンテの手にその手紙が渡ったのは。曰く付きのガキ一匹と共にな」
あたしは、手紙に何か濡れたような跡が残っていることに気付いた。ちょうど手に持つ部分がしわが寄っていて、まるで何度も読み返したみたい。
何度も何度も読み返して、──その度に何度も泣いたみたいだった。
「ロシナンテに預けられたガキは、マリージョアから連れ出され、忽然と姿を消した。血眼になって探した奴らもいたが、結局見つからなかった…」
「…そんな……だって…」
「全世界から忘れられるぐらい長い期間…かれこれ20年近くか。そいつは死んだものと思われていた…」
手紙を持つ手が震えてくるのを止められなかった。
だって、あたしその話知ってる。
断片的にだけど。
"思い出した"の。
マリージョアに行って、新世界に入ってから。
だってそれは──。
ドフラミンゴのサングラスに呆然と突っ立っている自分が映り込んでいることに気付く。いつの間にか、彼とあたしの間にあったはずの距離がなくなっている。
手を伸ばせば触れられるほどの距離で、あたしはただ固まっていることしかできなかった。
「まさか、生きていたとはな…。お前が全て忘れて、何も知らずに生きていることが、ロシナンテの犯した二つ目の裏切りだ」