第19章 ドンキホーテ・ロシナンテ
「あたしは、全てを知るためにここに来たの」
思ったより自然に声が出た。
「"コラさん"のことも、"あたし"のことも、知ってることがあるなら全部教えて。…椅子も仲間も、その他のものだって。何も欲しくない。あなたに求めることはそれだけよ」
静かに彼を見つめ返す。
妙に心が落ち着いてくるのを感じた。
そうだ。
怯える必要はないの。
だって、あたし別に、この人を本心から怖いと思っていないんだもん。
ゾッとするほどの気迫に気押されはすれど、それは恐怖ではない。怖い、恐ろしいという気持ちじゃなくて、もっとこう…。
「…教えてくれないなら、今すぐここを出て行く」
そう。──やっぱり、懐かしい、のよ。
自分の気持ちを見つめ直すと、やはりそれが一番しっくりする気がした。だって、ここ数日感じていた焦燥感や苛立ちも一切感じないんだもん。──あたし、ローに八つ当たりしちゃうくらい、イライラしていたはずなのに。
ドフラミンゴはゆったりと笑った。
「フッフッフッ…いいだろう」
その笑みがどこか含みを持っているような気もして、あたしはちょっと身構える。
無造作に、服のポケットに手を突っ込みながらドフラミンゴはこちらに向かって近づいてくる。
そして、あたしに向かって何かを放って寄越した。
足元に落ちたそれに思わず視線をやると、ドフラミンゴが投げたのは古びた封筒だった。
「少し、昔話をしてやろう。それを拾え」
「これは?」
「奴の私物だ。…遺品というべきか。ヴェルゴが海軍に潜入した時に見つけてきた」
あたしは警戒を解かずに、少しだけ屈んでそれを拾いあげる。既に封は切られていた。
「…奴って、誰なの?」
何となく答えが分かっていながら、あたしは口を開く。何かを話していないと、知りたかったことが逃げていくような気がして。