第19章 ドンキホーテ・ロシナンテ
あたしは呆然とする思いで彼女の話を聞いていた。
ローを自由にしてくれた人。
命の恩人であり、大切な人。
こんなふうに、その人のことを知るとは思わなかった。まさか、ロー以外の人の口から聞くなんて。
そして同時に、今までのローの行動の意味がすとんと腑に落ちた。
『おれも珀鉛病の患者の一人だった。…だが、救ってくれた人がいた』
『あの人がおれを全てから解放してくれたから、おれは誰より自由で在りたい…いや、そうでなきゃいけねェ』
あんな辺境の、ノースブルーの端っこにあるような島まで。わざわざあたしに会いに来た理由。
『そう思うだろ普通は。……あの人にあわせる顔がねェところだった』
「──その人だったのね」
その人が──命の恩人である"コラさん"が、あたしに会いに行くようにローにお願いしたんだ。
もしかしたら、何かあれば守るように、とも言ったのかも知れない。
ローは人にもらった恩を忘れるような人じゃない。無愛想で分かりにくいけど、大切な人に言われたことなら律儀に約束を守る。そういう人だ。
だから、ローはあたしに会いに来たし、今も死なないように守ってくれる。
彼の行動に義務感とも思えるほどの頑なさを感じてしまうのは、きっとそのせいなのだ。
全ての辻褄が合って、妙にすっきりした気持ちがした。あたしの中で納得感が勝ったみたいで、意外とショックでは無かった。
ベビーファイブが突然黙り込んだあたしを見て、一瞬訝しげな顔をしたけど、特に掘り下げて聞くほどでも無かったのか、くるりと前を向いて歩き出した。
程なくして、彼女は一つの部屋の前で立ち止まった。入口はさっきの部屋と同じアーチ型をしていたけど、今度はビロードのカーテンじゃなくて重そうな大きなドアが付いていた。
ベビーファイブがドアに手をかけて、あたしを見る。
「じゃあね、殺されないように気をつけて」
それは、彼女なりの親切だったのかも知れなかった。
あたしはたった一人でその部屋に入る。