第19章 ドンキホーテ・ロシナンテ
「無駄なことはしない方がいいわよ」
小さな女の子の声があたしの思考を止めた。視線を移すと、エメラルドグリーンの髪の女の子がもぐもぐと飴玉を舐めていた。
「若があんたに海楼石を付けなかった理由を考えなさい。若から逃げるなんて、できっこないからよ」
見かけの割に、大人びた口調だ。
「そ、それってどういう意味?逃げられないって……い…った…」
突然走った鈍い頭の痛みに、思わず目を瞑る。
──ああ、…そうだ、思い出した。
あの時、ナミと共にサニー号にいた時、王宮の方からものすごく懐かしい気配がしたんだ。だから、それが向かったグリーンビットまで無理を言って船を出してもらって。
そして、鉄橋であの人を見た時。
泣きたくなるくらい胸が苦しくて、ずっと会いたかったような、そんな安心感があたしの身を包んだの。
それはローと再会した時とも違う、言葉に言い表せないような感情だった。
あたしはずっとあの人を探していた気がする──。
「早く立ちなさいよ」
ベビーファイブに腕を引かれてあたしは長椅子から立ち上がる。混乱したままの頭でどうにかこの状況から逃げる方法がないものかと思考を巡らす。
だけど、考えても意味がないことにあたしはもう気づいていた。きっと、少女の言うことが正しい。
奴から逃げられる気がしない。
出来るかどうか、試してみる気にもなれない。
ローも夢の中のあの人も、ドフラミンゴからあたしを遠ざけるために島に置いていったと、ほんのつい数日前に知ったばかりだ。そうまでしないといけないほど、あたしにとって危険な男だと。
だけど、今はそれもどうだっていいような気がした。
あたしはどうやっても結局、ドフラミンゴに会わないといけない気がするの。
どうしてこんなに懐かしい気持ちがするのか。
彼があたしの何を知っているのか。
それを知るまでは、ここから逃げられない。
あたしは覚悟を決め、唾を飲み込んで、ベビーファイブを見る。
──それなら、仕方ないわ。
分かるまでとことん向き合ってやろうじゃないの。
「…いいよ、分かった。あたしをあの人の元に連れて行って」
自ら言うことは、せめてもの抵抗のつもりだった。
──あたしは無理矢理連れていかれるんじゃない。自分の意思で行くんだから。