第19章 ドンキホーテ・ロシナンテ
いや、違う違う。
その前に、なんであたしこんなところにいるんだろう。さっきまでサニー号にいたはずで、ナミやブルックが近くにいて…。
だんだんと視界が馴染んで逆光の彼らの姿をぼんやりと映し出してきた。
「早く連れて行かんかい、ベビーファイブ」
彼らの中で一番年老いた男が声を出す。年老いたと言っても、決して弱々しい老人ではない。故郷の海の男も泣いて逃げ出すくらいの逞しい体つきだった。
「だから何で私なのよ!!」
そんな彼に噛み付くのはさっきから何度か声を聞いた若い女の子。艶のある黒い髪をカチューシャでまとめ、メイド服を身につけている。彼女はベビーファイブというらしい。
「面倒だからに決まって…いや、おぬししか頼れる奴がおらんからに決まってるであろう!」
「し、仕方ないわねぇ!若はどこ?」
さっきまであれほど渋っていたのに、打って変わって笑顔で応じる。拍子抜けしてあたしが目をぱちくりしてると、他の仲間が口々に答えた。
「自室じゃね??」
「ううん、スートの間に連れて来いと言っていたはずよ」
「あぁ、そうだ。おそらく海軍大将の…藤虎と話してるはずだが」
口元を覆い隠した男(さっきから聞こえてきた会話からすると、彼はグラディウスというらしい)がそう締めくくった。
呆然として彼らの会話を聞いていたんだけど、話がまとまった途端、俄に焦りが込み上げてきた。だってこのままだと、あたしは間違いなくドフラミンゴのもとに連れていかれてしまう。
こっちには話すことなんて一切ないんだけど、あちらさんはあたしに会いたがっているらしい。
今でさえ逃げられる状況ではないのに、ドフラミンゴの前から逃亡するなんてさらに難しくなるに違いない。
それはまずい。
今のうちに逃げるべきよね…!?
でも、どうやって!!!
「あんた!いつまで座ってんの!着いてきなさい」
ベビーファイブがあたしに近づいてくる。
心臓がバクバクと早鐘を打った。
握りしめた手がじっとり汗ばんでくる。
やることは簡単だ。
あたしは風なんだから、一瞬で空気に溶けてしまえばいい。この中の誰かが"ハキ"を使えても、この距離ならまだ逃げれるはずだ。
頭の中ではそこまで分かっている。なのに。