第19章 ドンキホーテ・ロシナンテ
ここまで分かりやすいといっそ面白くもある。
"レディ"に対して感じた違和感を口にすればもう一発くらい攻撃が飛んできただろうなと思いながら、緩んだ口元を手で隠して笑いを抑える。
アイツが感情豊かに怒るのを見るのも、涙を浮かべて悔しがるのを見るも嫌いじゃなかった。もっと言えば、俺を探す時の苦しそうな泣き顔以外なら、どんな反応も悪くなかった。
だから、教会のガキ達がアウラを追う理由も何となく分かる。奴らも奴らなりに、少しでもアイツの興味を引こうと必死なんだろう。現にアウラは擦り傷は絶えなかったが、大きな怪我をしていることは今まで一度も無かった。
毎回憤慨して森を駆け込んでくる様子を見るに、本人は一切気付いていないようだが。
消え去ったアウラを探しながら森の中を歩く。アイツが行き着く場所の見当は着いていた。が、先に着いてもつまらねぇから敢えて能力は使わない。
自分にしてはずいぶん時間をかけてその場所にたどり着いた。
「とっておきの景色とやらを見せるんじゃなかったのか」
「今日はもう行かない。陽が落ちちゃったもん」
薄暗い洞窟の中で膝を抱えているアウラ。
「この季節に岬の方に行くとね、夕陽がものすごく綺麗なの。海が金色に光ってきらきらしてるんだから。せっかく今日は天気も良いし、一番きれいな景色を見せてあげられると思ったのに」
自分で逃げ出したくせに不貞腐れて呟くのを見て、自然と口角があがる。
森の中で俺を見つけてあんなに嬉しそうに笑って、今日はただ、俺にその景色を見せたかったらしい。
真っ直ぐな想いや感情を向けられると、毎回胸の奥底が揺さぶられるような感覚を覚える。コイツと居る時は計算も駆け引きもない。それが妙に心地よかった。