第19章 ドンキホーテ・ロシナンテ
俺の前を歩くアウラを眺めながらそんなことを考えていると、突然銀色の頭がガクンと下に沈んだ。
咄嗟に上着のフードを掴む。フードの下から、ぐえ、と苦しそうな声がした。コイツがよく転ぶのは海楼石のせいか、それともコラさんと同じ血が流れているせいか…。
けほけほと咳き込んだ後、小さく震える肩。
「ローは…本当に…」
何となく予感がして、ぱっと手を離す。
「女の子の扱いがなってない!!!」
予想通り、なかなか鋭い回し蹴りが飛んでくる。軽く身を引いて避けると、アウラは震える拳を握りしめてこちらを睨んだ。転ぶ前に止めてやったのに何故怒るのか分からない。
「助けてやったんだろうが」
「もうちょっと他にやり方があるでしょ!窒息するかと思ったよ!!レディにそんなことできるのローくらいだよまったく!!」
言うか言うまいか迷ったが、不機嫌を露わにして吠えるアウラを見て思わず小さく呟く。
「…人に女の扱いを要求する前に、その格好で回し蹴りするのはどうかと思うがな」
「な……!」
アウラは普段は男物の服装をしていることが多かったが、たまに今日のような少女らしい格好をしている日があった。俺は割と嫌いではなかったんだが、アウラは動きにくい服は好かないらしく、着ている頻度は極端に少なかった。教会のお下がりが無くなってどうしようも無くなった時に渋々着るらしい。
だからか、コイツは着ている服に無頓着に振る舞う節がある。今着ているような丈の短いワンピースで回し蹴りをすればどうなるかくらい、少しは考えてもよさそうなものなんだが。
アウラもようやくそれに思い至ったのか、みるみるうちに丸い頬が朱色に染まっていく。唇を震わせて何かを言おうとしたが、結局何も出てこなかったらしく、
「〜〜〜っ!ローのばか!!!」
一言叫んで森の奥へ消えて行った。