第19章 ドンキホーテ・ロシナンテ
──『弱ェやつは死に方も選べねェ』
いつか、あの男──ドフラミンゴが吐いた台詞だ。奴のことは殺してやりたいほど憎んでいるが、その言葉自体は間違っていない。
「それは奴らのせいじゃねェよ。お前が弱ェからだ。弱ェから虐められる」
アウラははっとしたようにこちらを見た。
寄ってたかって女を虐める方が悪いに決まっている。んなもん誰に聞いたってそう答えるだろう。だが、どれだけ正論を叫んだところで何も変わらねぇのが現実だ。
弱い奴が幾ら正論や綺麗事を並べ立てようと、何の役にも立たねぇことを俺は既に知っていた。そういうのは力を持った奴が言って初めて意味を持つ。
弱ければ何も守れないし何も選べない。
自分の死に方すらもだ。
「でもどうせ敵いっこないもん」
泣きそうな顔で俯くのを見て、ますますコラさんには似てねぇなと思う。同時に、何故かこのまま放っておけない気もした。
目の前の白くて小さい生き物を見ていると妙に心が騒つく。普段なら無視して立ち去っただろう場面で、腰を下ろしたのもそのせいだった。
──ああ、…この感覚はあれだ。
改めて自分の行動を思い返し、そしてあることに気付く。
…ウチの航海士──ベポを助けてやった時の感覚に近い。
同じく森の中で、シャチとペンギンに虐められていたシロクマ。あれを見た時の胸騒ぎと似ている。
…どうやら俺は、自分が思っているより遥かにこういう生き物に弱いらしい。