第19章 ドンキホーテ・ロシナンテ
「だれ?」
──こんだけ目立つ見た目してりゃ、目印はもっと他にあったろう。
自力で窮地を脱したソイツの前に初めて姿を現し、まず思ったのはそれだった。
波打つ銀色の髪も、浅瀬の海のような瞳もこれまで見かけたことがないような珍しい色だった。
只の田舎娘と言うにはどこか引っ掛かりを覚える風貌。着ているワンピースが薄汚れていることが不釣り合いに見えるほど、そのガキには独特の雰囲気があった。
どこにでもいる普通のガキを想像していたんだが、予想を裏切る容姿に少し面食らう。少なくとも、コラさんには全く似てなかった。
だが、あの人の言っていた妹はやはりコイツのことで間違い無さそうだ。二言三言言葉を交わす内に確信を持つ。
足首に飾りがあったのも理由の一つだが、その飾りが海楼石だったことが決定的だった。この平和な島で、こんなもん付けてる奴は絶対、普通のガキではあり得ねぇ。状況からすると、コラさんが連れてきたと考えるのが妥当だろう。
──それにしてもコイツは。
質問を重ねる俺をきょとんとして見つめてくる様子からは、警戒心はまるで感じられ無い。たまに怒ったような顔をしつつも、どこまでも素直に問いに答える。
話しかけておいてなんだが、知らねぇやつに声を掛けられたら逃げろと教わらなかったのか。あまりに無防備な様子に少し呆れる。
これじゃあ今までに幾度となく危険な目に遭ってそうなもんだが…。どうやらこの島ではそんな物騒な事件も起こらねぇらしい。
そこでふと、さっきの三人組との一件を思い出す。
逃げ込んだ森の中で、小さく蹲っていたコイツ。
手足の至る所に擦り傷があるのを見れば、あれが今日に限ったことではないのは容易に想像がついた。
話を振ると、怒りを思い出したのかガキはその小さな拳を握り締める。
「あいつらほんとに大っ嫌い。あたしがこんなに傷だらけなのは全部あいつらのせいなの!」
目の前で悔しそうに唇を噛むのを眺めながら、俺は昔ある男が言った言葉を思い出していた。
…気持ちはわかるが、それを言ってどうする。
叫んだところで何も変わらねぇだろ。