第19章 ドンキホーテ・ロシナンテ
歩きながらサークルを作っては移動することを何度か繰り返す内に、遠くに建物を見つけた。
──…教会、か。
開放的な野原の向こうに見えるのは、十字架を掲げた建物。俺の故郷にも似たようなのがあったから、あの外見は教会で間違い無いだろう。
街に入ったのはやはり徒労だったかもしれねぇなとそれを確認して思う。身寄りのないガキを連れてくるとすれば、孤児院か教会と相場は決まっている。コラさんはこの島に縁が無いはずだと思っていたのにそれを真っ先に思いつかなかった自分にうんざりした。
ひとまずそちらに向かって足を進めていると、教会よりさらに遠くに何か白いものが過ぎった。
──なんだ?
一瞬ウサギかと思ったが、どうやらそうじゃねぇ。
教会の奥に広がる森の中に駆けて行ったそれは、人間の子供のようだった。その後ろをさらに3つの小さな影が追いかけて行く。
教会に向かう前に、たまたま目に入ったガキを確かめてからでもいいだろう。俺はなんとなく興味を引かれて、一気に森の方まで能力を広げその影を追った。
森の中にいたのは、10歳を少し超えたぐらいのガキ4人だった。その内1人は女だ。珍しい銀色の髪をしていた。
後から追いかけていた3人が、その銀髪のガキを探し回っている。側から見る限りでは、あまり友好的な関係とは呼べそうに無かった。
俺はどうやらこういう場面に縁があるらしい。昔、こんな風に虐められていたヤツを気まぐれで助けてやったことがあった。それがきっかけでそいつは今ウチの船の航海士をやっている。…まあ、虐めていた方も今となっちゃ仲間なんだが。
思いながら、ガキどもの攻防を木の上から眺める。さして興味は無かったが、なんとなく傍観を続けているとガキ3人が何度も聞き覚えのある名前を口にしていることに気付いた。
…ああ、なんだ。
そういうことか。
追われているヤツはどうやら"アウラ"という名前らしい。
そのガキが逃げようとして転んだところで、ようやくしゃがんでいた腰を上げると、思わぬものが目に入った。そのせいで一瞬反応が遅れる。
白いスカートが舞う。
一瞬見えた華奢な足首。
『名前は...いや、変わってるかもしれねェな。そうだな…足首の飾りが目印だ』
──その足首には、間違いなく小さなひも飾りがあった。