第19章 ドンキホーテ・ロシナンテ
── 北の海(ノースブルー) 、ミカヅキ島。
ミドル王国の最西端に位置する小さな島。
島に船を近づけ、能力の届く範囲に入った瞬間に移動する。勝手に消えるなと、以前はよく仲間に文句を言われたが、最近はそういうこともあまり無い。一切聞く気がねぇのを見て諦めたんだろう。まあ、賢明な判断だ。
昔あの人と一緒に行こうと約束した島に、俺は一人で降り立った。結局、交わした約束が果たされることは無かったなと思いながら。
あの時気まぐれで思い描いた夢は、どれほど願ったところで一生実現することは無い。夢のまま色褪せ、朽ち果てた。
死んだ方がマシだと思うような地獄は既に経験したはずだったが、それでも、あの人を失った時はさらに酷い痛みを味わった。もし俺の寿命を使って生き返らせることが出来るなら、喜んでこの命を差し出すと思うほどに。
身寄りがなく、可愛げもねぇガキ一匹を救うために、でかいリスクを背負って駆け回ってくれた人。そしてそのために命を落とした人。
その最期の頼みを叶えようと思ったのは、一種の贖罪だったのかも知れない。
「…暑ィな」
思わず独りごちて、海を見る。
一緒に来るはずだった島。
一緒に見るはずだった海。
一緒に会うはずだった人。
それが叶わないことを認め、ようやく一人で会いに行く決心がついたのは確か16の時だった。
──あの人がこの世を去ってから、すでに3年が経過していた。