第19章 ドンキホーテ・ロシナンテ
『は?妹?』
『あぁ、いるんだよ。だいぶと歳は離れているが』
ドフラミンゴの元を離れノースブルー中の病院を訪ね歩いた半年に渡る航海の途中。
何でもないような会話の中であの人は俺に言った。──妹に会いに行ってくれ、と。
あの人が面と向かって俺に頼み事をしたのは、後にも先にもその一回きりだった。
当時の詳細は覚えていないが、俺は良い反応はしなかったはずだ。話の切り出し方があまりに唐突だったってのもあるが──。まるでその場に自分が居ないような口ぶりで話すコラさんに単純に腹が立ったからだ。
それを口にすると、あの人は一瞬驚いたような顔をして、それからでかい口を開けて笑った。
涙が滲むくらい笑いながら『おれじゃダメなんだがなぁ…』と呟くあの人に、頭をぐしゃぐしゃと撫でられたのを覚えている。何故笑うのか分からなかったが、その笑顔を見て、俺はその時初めて、少しだけ悪くないかもしれないと思った。
いつかその妹とやらに会いに行って、この人がガキの扱いに手を妬くのを見るのはなかなか面白いかもしれない。家事も育児も器用にできるタイプの人じゃねぇから、何をするにしても問題を起こすに違いない。
横で文句を言って、呆れながら片付けて、家族の真似事みてぇに3人で食卓を囲んだりする。そういうのも案外悪くねぇかもな、と思った。
──病気が治ったら一緒に行こう、と。
その時確かに約束したはずだった。