第3章 白と赤
船での日々はあっという間に過ぎ去った。
目に映るもの全てが新鮮で飽きることがない。
あたしは暇さえあれば船内のあらゆる設備を見て回った。
どんな仕掛けで動いているのかはまったく分からないけど、船乗りたちが舵を取る姿は見ていて頼もしい。
甲板から見える海の生物にも心が躍った。
海面から見たこともない魚が飛ぶたびに、あたしはいちいち歓声を上げずにはいられないのだった。
この船をすっぽり覆うくらいの大きな黒い影が見えた時はさすがに肝を冷やしたけど、クルーたちは慣れたもので、海面から顔を出す前に素早く舵を切って交わす。
一年のほとんどを海の上で過ごすと言っていたのはやっぱりダテじゃないみたい。
船は順調な航海を続けていた。
乗組員たちとも仲良くなった。
一番はじめに話しかけてきた人はドレーフといった。彼がこの船の船長らしい。
ずっと港で働いていたのに名前すら知らなかったのは申し訳ないけど、毎月十数隻もの船が入れ替わり立ち替わりやってくる中、数ヶ月に一回会うか会わないかといったところだから無理はない…と思う。
彼は多分あたしが女だってことも気付いていて、だから事あるごとに気遣ってくれた。
この船の人たちは毎日はシャワーを浴びないみたいだけど、あたしとジョナサンは気にせず使っていいと言ってくれる。ま、さすがにそこまでは甘えられなかったけど。