第19章 ドンキホーテ・ロシナンテ
『…こんな時に何やってんだあのバカは』
ゾロが呟く。本当は心配してるくせに、悪態しか吐けないのはこの男の素直じゃない性格のせいだ。私もそれは分かっているから、あえて何も言わずに話を進める。
「とにかく、アウラの意思はまた確かめるとしても、まずはアイツから取り戻さないといけないわ。このままでいいはずがない」
『そうね。こっちの事情も考えるといずれにしてもドフラミンゴとは戦うことになったでしょうし』
口を挟んだのはロビンだった。
『…私たち、ものすごいタイミングでこの国に来ちゃったみたい』
「どうやらそのようね」
さっき一通り話を聞いたから、ロビンたちの置かれている状況は大体理解してるつもりだった。
──一見、なんの憂いも感じられないこの国。だけどその眩しいほどの賑やかさの下には、重く暗い過去が沈んでいたのだ。
ロビンの話によると、かつてこの国はリク王という人物が治めていたらしい。平和主義で温かく、賢君であった彼は国民からとても好かれていたと言う。
最悪の男──ドフラミンゴが現れるまでは。
ドフラミンゴはドレスローザに上陸するや否や、国王軍や国民、リク王その人までを操って戦いを起こさせ、この国を根本から滅茶苦茶に壊したのだった。彼が持つイトイトの実の能力を使って。
そしてそれは過去だけの話ではなかった。彼は今も、仲間の能力を使って多くの国民の自由を奪い、小人族を騙して圧政を敷いている。
なのに、街で暮らす人々はそんな事実すら認識できていない。リク王が悪だと教え込まれ、ドフラミンゴに疑いを持つ反乱分子は"オモチャ"に姿を変えられて、国民の記憶から消されてしまっているから。…オモチャになると、変えられた本人も人間だった頃の記憶が失われてしまうらしいのよ。
──誰も、この国の闇に気づかない。
それが、ドフラミンゴが"最悪"たる所以だった。