第18章 誘拐
彼女は、鉄橋よりずっと上の方を見ていた。
すぐそこにトラ男が──彼女のことをあれだけ悩ませていた男がいるのに、そちらの方はちらりとも見ない。一心に、瞬きもせず、宙を見つめている。
彼女の意識はただひたすらに、その何かに向いているようだった。
──他の何も気にならないくらい、強く、心惹かれているようだった。
「──ああ、そこにいたのか」
声が聞こえた。それは、アウラの見つめる先から響いてきた。つられて視線を上げる。
「俺に迎えに来させるとはいい度胸だな。真っ直ぐ来いと言っただろう」
視界に入ったのは、青い空に映える金の髪。
そして、ピンク色のど派手なコート。
「まさか…あれが、ドンキホーテ・ドフラミンゴ…」
口に出した声が震える。
足場も何もない海の遥か上で、空中に浮かんでいる男。この距離でも感じる威圧感。
サングラスのせいで目は見えないけど、その視線はこの船に注がれているようだった。口元に浮かんだ笑みに気づき、背中に悪寒がはしる。
「まだ、思い出さねェか」
男の低い声が聞こえた途端、反射的に口から悲鳴がでた。叫んだのは私だけじゃなかったみたいだけど。
「やめて!!!!こっち来ないでーー!!」
「「「ぎゃーーー!!!!」」」
だって、どう考えても。
──アイツ、こっちに向かってきてる!!!
そもそもなんで空飛べんのよ!?
どういう原理!?
パニックになりながらも、アウラの前に立つ。
アイツがこっちに来る理由は、多分この子。
こんな状態の子を敵の前に立たせていいわけがない。
絶対に渡すかっ!!
足が震えるのは止められないけど!
「トラ男、たすけっ…!!」
溢れる涙をそのままに、必死で恐怖心と闘っていると、黒い何かが宙を駆けてくるのが視界の端に映った。
鉄橋ではなく、海岸の方から。
「泣いて嫌がるうちの仲間に…!!」
「え……?」
黒い物体は、私たちがよく知る声をしていた。
「──近寄んじゃねェよ!!!」
ドフラミンゴに向かって空中で鋭い蹴りを放つ。
爆発が起きたかと思うくらいの衝撃。
波が立ち、船が揺れる。