第18章 誘拐
サニー号の帆は大きく風を受けて飛ぶような速さで目的地に向かっていた。耳にうるさいくらいの豪風の中、アウラは変わらず向かう先だけを見つめている。
──それにしても。
この子、あの距離にいる人の会話まで聞こえるの?
隣で髪を靡かせている少女を横目で見ながら、私は素直に驚く。
グリーンビットでの会話も、別に大声を張り上げているわけじゃないはずだ。この距離でその会話が聞こえるということは。
「あんたの能力っていったい何なのよ…」
アウラは私の呟きには反応せず、真剣な眼差しで海の向こうを睨んでいる。きっと、彼女の意識は今ここにはない。
「ナミさん、突然どうなさったんですかー!??」
「さぁ、分からない。この子が突然、グリーンビットが危ないって言うから…」
「グリーンビット?それは確か、ロビンさん達が向かった場所ですよね」
「ええ、その通りよ。橋が見えてきたら教えてちょうだい。もうすぐだと思うんだけど」
「橋って…もしかして、アレのことですか?」
ブルックの指骨が示す方向を見る。
無人島に伸びる橋にしては頑丈すぎる造りの橋。想像してたものとは少し様相が違ったけど、なるほど、確かにあれがそうでしょうね。
その鉄橋の先に見えるあの島がおそらく、グリーンビット…。
「てめェら!!何故ここにいやがる」
目を細めて橋の先を見ていると、突然鋭い声が飛んできた。驚いて視線を橋に戻し、ちょうどその真ん中あたりに、知った人影を見つける。
「トラ男さん!!無事でしたか!!」
「トラ男!アウラが、あんたが危ないって!」
トラ男はシーザーを片腕で抱えていた。ウソップやロビンが近くに見あたらないのは気になるけど…。
見たところ、アウラが言うほど、悪い事態にはなってないみたい。少しほっとする。
「チッ。おれのことはほっとけ!!一刻も早くこの場から離れろ!!」
こっちは心配して駆けつけたってのに、あまりにもすげないトラ男の返答。あれだけ叫べるなら心配することなかったんじゃない?
少し呆れて、一番不安がっていた子に声をかけようと後ろを振り返る。
「アウラ、ひとまず大丈夫そうよ…って、どうしたの?」