第18章 誘拐
目の前の少女は突然、ハッとしたように空を仰いだ。ドレスローザの上空を呆然とした表情で見た後、ゆっくりと顔を動かして今度は海の向こうを見つめる。
「…ナミ、あっちには何があるの?」
「向こう?」
様子がおかしい少女に不思議に思いながらも、目線の先を追いかける。さっきトラ男に見せてもらった地図を頭に思い浮かべてみた。
トラ男の船の航海士が書いたとかいう大雑把な地図。端っこに獣の肉球のようなものが押されていた。あの地図を信じるなら、その方向は。
「そっちは…そうね。グリーンビットがあるはずよ」
「…ローたちが向かったところだよね」
神妙な顔をしてじっとその方角を見つめるアウラ。ただならぬその様子に、だんだん私も不安になってくる。
一体どうしたのよ。ようやく元気になったと思ったところだったのに。
「あんた、やっぱり変よ。どこか具合でも…」
「ナミ、船を出そう」
「え?」
小さく、だけどはっきりと少女は言った。
「…どうしてあたし、気づかなかったんだろう。ドレスローザに着いた瞬間にこうするべきだった」
何かに取り憑かれたようにつぶやいて、立ち上がるアウラ。
野生動物のように神経を尖らせている。彼女のこの様子を私は以前に見たことがあった。
──パンクハザードで。
茶ひげに乗って、シーザーに連れ去られた子供たちの行方を探していていた時だ。
子供たちに異変が起きた時、まだ何も見えないところから、彼女は様子が変だと言い出した。そして声をかける暇もなく、空気になって溶けて消えた…。
思い出すと同時に、反射的にアウラの腕を掴む。
「だめよ!!一人で行かないで!!」
アウラは驚いたようだったけど、私はその表情を見て確信した。
…やっぱり。
この子、また一人で行く気だったんだ。
「グリーンビットが危ないのね?」
「全部、罠だったの。ドフラミンゴは七武海を辞めてなんかない。……どうしよう、あそこには海軍もいるんだ」
話しながらどんどん青ざめていく彼女の様子から、グリーンビットで良くないことが起きていると私も理解した。
今ここに船長はいない。
船を出すかどうか。
決めるのは、私。
「ブルック!チョッパー!帆を張って!私たちもグリーンビットへ向かうわよ!」