第18章 誘拐
私が思っている以上に、彼女は自分自身のことを知らないのだ。──そして多分、トラファルガー・ローのことも。
──本当に何も、すがるものがないんだわ。
私は今更ながら、やっとそのことに気づいたのだった。
思い出してみれば、出会った時にあれほどはっきりと"ローの仲間じゃない"と言っていた。じゃあ一体なんなのと聞くのは野暮かと思って敢えて聞かないでいたのだけど、アウラも今の関係に意味を見出せないでいたとしたら。
この子はずっと、"そこまでしてもらう理由がない"と思いながら、それを口にすることすらできずに、今の状況を受け入れてきたってことじゃないの。
「何も分からないまま、あたしのせいで誰かが傷つくのは耐えられない。それならいっそ、教えてくれなくていいから、あたしにも命をかけろって言ってくれた方がずっと気が楽なのに」
ぽつりと言葉を落とす少女。
…ここまで思い詰めてたことに気付かなかったなんて。
「わかったわ……こうしましょう。それもこれも、ヤツが帰ってきたら全部聞いてしまいなさい。何を知っていて、何を知らないのか。全部」
心許なさそうに少し揺れた瞳を見つめながらきっぱりと言い切る。
「これからも一緒に旅をしたいんでしょ。なら、あなたたちはお互いのことについてもっと話し合うべきだわ」
アウラは迷ったふうに視線を落としたけれど、やがて納得したのか小さく頷いた。
「…それにね」
自信がないみたいだからついでに言い添えておく。
「これだけは確信を持って言えるんだけど、あんたがどれだけ図々しく聞いても、あの男は絶対にあんたのこと嫌いになんてならないと思うわよ」
断言する私を見て、アウラは困ったように、だけど少し気持ちが晴れた表情で微笑んだ。
「…ありがとう、ナミ」
…慰めじゃなくて本心なんだけど。
そう言おうかと思ったけど、久しぶりに笑顔を見たせいか、私の口元も自然と綻ぶ。