第18章 誘拐
「あんただって本当は分かってるんでしょう。今回ばっかりはこれが最善だってこと。──誰かを守って戦えるほど、此処は甘くない」
ぴくりと震える細い肩。
「狙われてるって分かってるところにわざわざ連れて行く方がどうかしてるわよ。本当にトラ男に何も聞いてない?」
アウラは透明感のある青い瞳を揺らして、私を見た。何か思い当たる節があるみたいね。
少女は唇をかみしめ、何か思い詰めているふうだった。やがて、秘密ごとを漏らすようにぽつりと言葉を落とした。
「…たしかに、あたしがみんなみたいに強かったとしても、ローは今回の作戦に入れなかったと思う」
「ええ。あの男、普段何を考えてんのか分かんないけど、少なくともあんたを守りたいと思っているのは事実なんだから…」
「ううん、そうじゃない。そうじゃないの」
「何が違うの」
聞き返しながら、私はアウラの目が今までと少し違っていることに気づく。さっきまでは頼りない弱々しい雰囲気だったけれど、今浮かべているのはどこか諦めにも似た表情。彼女は小さく息を吐いた。
「実を言うとね、ナミ。あたしたち、ナミが思ってるような関係じゃ無いの」
「え?」
「……ローがあたしを守ってくれるのは、"そうしないといけない"からであって、彼の意思じゃない」
突然何を言い出すの。この子は。
「結果は同じかも知れないけど、根本的なところは違うの。あたしとローは、麦わらの一味みたいな関係じゃないから。──彼にそこまでしてもらう理由がないのよ」
その言葉を聞いて、思わず目を瞬く。
悲観的でもなく、謙遜しているわけでもなく、冷静にぽつぽつと語るアウラ。いつもルフィやウソップと一緒に騒ぎ、ゾロに揶揄われて怒っている少女とは到底思えなかった。
「どうして彼の行動に義務や責任みたいなものを感じてしまうのか。そもそもなぜ、あの時あたしに会いにきたのか。あたしなりにいっぱい考えたの。だけど、やっぱり、分からなかった」
…この子は、トラ男に仲間外れにされたことに癇癪を起こしているわけじゃない。そんな些細な話ではないのだ。
それよりもっと以前の。
本質的な問題。