第18章 誘拐
ローはしばらくの間私を見てたけど、やがて興味を失ったように前方に向き直った。
「悠長に話してる場合じゃねェ。アイツらどこ行った…」
「そうね。取引までまだ時間はあるけれど…ふふ、早く船に戻らないといけないものね」
私も2人を探して隣を歩きながら、少し笑みが溢れる。
少しこの人をからかってみたくなった。
隣を歩く私に、歩幅を合わせようともしない人。
だけどその興味を惹くのは、あまりにも簡単なことだと知ってしまったから。
「ねぇ。だけど、ちょっとはあなたも言い方を考えた方がいいと思うわ。そんなに厳しくしてたら、いつか嫌われちゃうわよ?」
誰に、とは言わなかったのに、彼はすぐ分かったらしい。鬱陶しそうな反応をすると思ったのだけれど、思いの外、淡々と答える。
「……別に構わねェよ。勝手に死なれるよりマシだ」
「あら。ふふふ…重症ね」
この様子、あの子に見せてあげたかったわ。そうすれば、ちょっとは気持ちも上向くんじゃないかしら。
船を出る時、必死で泣くのを堪えていた彼女──アウラのことを思い出す。
普段はわかりやすく元気なのに、ここ最近は誰がみても様子が変だった。その原因はおそらく、隣の男。
…だけど。
彼の真意を知れば、彼女も笑顔を取り戻すんじゃないかしら。だって、この人は──。
さっきから薄々と感じていたことが、ローと話すうちに確信に変わる。
ローがここまで遠ざけるのは、それだけ彼女を巻き込みたくないから。失いたくないから。
例え嫌われることになっても、彼女が無事ならそれでいいと、本人もそう認めている。
──この人は、本当に、何よりも、あの子を失うことを恐れているんだわ。
「……本当に、不器用な人ね」
小さくつぶやいて、横目で隣を見る。
「あなたが多くを望んでないことはよく分かったわ。だけど…いつまでそれで我慢できるかしら」
「あ?」
「…女の子は思ったより成長が早いわよ。あなたはのんびり構えているようだけど、周りが放っておかないかも知れないわね」
怪訝そうに眉を寄せる男。
本当に訳がわからないって顔。
──いつまでも子供だと思って、後で泣かなきゃいいけど。